すき?あたしのことがほんとにすき?

ほんとの、ほんとのほんとのほんと?

 

あなた一体本当、誰を好きなの。

 

すきなもの。

マスカットココナツバナナメロン。

甘いもの。

甘くて、うっとりしちゃうようなそんなもの。

あなたのキスはやさしいけど甘くはないわ。

だって、誰を考えているの。

あなたのそれはただ女の子が好きなだけ。

それくらいのことはあたしにだってわかる。

 

 

 

花咲く乙女よ穴を掘れ

 

 

 

目の前の彼の瞳に言う。

「キス、して。」

「いいよ。」

触れる唇。感じる視線。

きっと彼も背中で感じているはずの、あいつの視線。

眠ったふりのその視線。馬鹿みたいだ。

「今日も部屋に来るでしょう?」

「ん、遅くなるけどね、そしたら眠っちゃっててもいいよ。」

「キスで起こしてくれるのね。」

「王子様のキスか、いいね、それ。」

「いつか王子様がって歌があったわ。」

「ふうん。」

王子様なんて信じちゃいない。

馬鹿馬鹿しくて、童話なんてものは好きではなかった。

童話なんて信じられるような日々を過ごしてこなかったからかもしれない。

彼は楽しく恋愛ごっこをさせてくれる。

キラキラだけをすくいとって差し出してくれる。王子様のように。

どろどろとか、ギラギラだとか、そういうものには蓋をするのだ。きっちりと。

白い指がカップに掛かり、それを持ち上げる。

いつもやさしく触れる指先。

キラキラと、あたしは自分がとてもいいものになったような気分になりうっとりと目を閉じる。

とてもスマートなやり方で、彼はあたしの心を撫でる。

蓋をされた鍋のなかでぐつぐつと煮え立つどろどろとギラギラしたもの。

それがあいつだ。彼にとっての。

「ゾロには?喉乾いてるんじゃないかしら?こんなところで眠ってるんだもの。」

甲板で、眠った振りで、彼の髪、指先、動くひとつひとつににざわめかされているはずの心。

あんたの気持ちはわからなくもないけれど。

絶対にあげないわ。あげたりしない。

「でも眠ってるし、喉乾いたら起きるでしょ、たぶん。さすがに。」

一瞬だけそちらにやられた視線、その瞳に込められた感情。

海を渡る風、煙草の匂い、気持ちの良い午後の日差し、平和に見えるだけの風景。

甘いお茶の香り、甘いタルトのカスタード、甘い時間、あたしにとっての。

あたしもおなじように蓋をする。

どろどろギラギラ、そんなものから目を反らし、

風にさらりさらりと揺れる彼の髪のその様子を楽しむ。焼きつけるように、じっと。

「まあ、それもそうね。ねえ、あたし今日はあれが食べたい。

海老と菜の花と、マヨネーズとマスタードのやつ。」

ああ、あれね、と笑う彼の指の先、握られた手のひら。

優柔不断、その手のひらをそう呼ぼう。

ビビ、ビビ、言ってた頃のほうがよっぽどマシだ。

わかりやすい彼の態度。けれどいまはどうだろう。

やっかいな心。やっかいな気持ち。やっかいな、存在。

穴を掘りましょう。深い深い穴を。

閉じ込めてしまうのです。

その穴に閉じ込めてしまえばきっとだれの目に触れることもないでしょう。

そうして王子様は意地悪な魔女に暗い穴のなかに閉じ込められ愛されるのです。

ほの暗い穴のなかを王子様の金の髪が綺麗に照らすでしょう。幸福の色に、温かく。

王子様の手はあなたをやさしく撫でるでしょう。あなたの髪を肩を、そのすべてを。

その手に撫でられ魔女は涙を流し、魔法は解け、生まれ変わるのです。

輝く金の色に見とれながら、そんな物語を想像する。

素敵なお話。お話は続く。ずっと、永遠に。恋の童話。

甲板の午後、平和な風景、すべてに蓋をして彼はまた笑う。

あたしもおなじように笑いお茶を飲む。

 

FIN.