卑猥ナ言葉デ踊ッテミセロ。

 

 

 

 

 

サンジは羽目を外すのが好きだ。

そしてそれは決まって自分のいるまえでのことで、

羽目を外すサンジにかけられる迷惑のその大変さを

わかっているのはあの船できっと自分だけだろうとゾロは思う。

そしていまもこうして、こんなふうにする。

にぎやかな島の、にぎやかなレストランの、テーブルクロスのその下で。

サンジはにやにやしながら肉を食う。

にやにやしながらそれを食って、この肉の塊ってあんたみたいだ、と言う。

そうして肉汁を赤い舌で舐めとる。

こくり、と喉を鳴らしてワインを飲み込んで、にこり、と笑う。

ゾロの靴は編み上げになっていて、だから靴紐を解かないと靴が脱げない。

だからゾロには仕返しが、出来ない。

それをわかっててサンジはする。

テーブルクロスに隠れた、その下での可愛げのないこのいたずらを。

もしかしたら外れているのは羽目ではなく、

こういうのは箍が緩んでいるというのではないかとふと思う。

けれどどちらでも変わりはしない。

迷惑であることには変わりがないのだ。

小さいテーブルには独特の味付けばかりの名物料理が並んでいる。

メニューの文字が読めなくて適当にいろいろ頼んだ。

上から3番目、とか下から2番目、とか、ゾロに持たせたメニューをサンジは一瞥もしないで決めた。

そして、インスピレーションつうのは大事だぞ、と言った。

ずっと思うんだ、なにか大切なことを。

それは抽象的なにかで、言葉にならない。

言葉にならないから大切なんだ、大切なものはいつも言葉にならない、負ける、言葉が負けるんだ。

それでそれを考えないように頭のどっかに置いておく、そこでじっとさせる。

そういうものが、自分に必要なものを教えてくれる。

そのときに、その瞬間に、これだ、って頭の奥が言う。

訓練だ、慣れると簡単に出来る。

そう言って、この島は美人も多くていいなあ、と笑っていた。

言いたいことはわかる気もした。

けれど頭が悪いのがきっといけないんだろう。わかりにくい。

独特の味付けの料理はどれも不思議な味をしていたけれどゾロの好みにとても合った。

サンジはニコニコしてそれらの料理に合うワインも頼んだ。

ワインをオーダーしながらウエイトレスを口説くことも忘れなかった。

さっき3つ先のテーブルのおっさんがやってきて、どこから来たの、とサンジに聞いた。

どっからって、海から。

この島の人間じゃないんだ?

うん。

そのワインじゃなくてもっといいワインがあるよ、島の特産なんだ。

あっそ。

御馳走するよ。

いらない、これでいい。

そう。残念だな。

食事の邪魔だ、もうあっち行け。

ねえ、この島の、有名な教会にはもう行った?

行ってない、さっき着いたばっかだし。

案内するから明日行こうよ、君に似た天使がいるよ。

興味ない。

教会じゃなくても、他にもいろいろこの島は楽しいよ。案内させてよ。

やだ。めんどくさい。

そう言ってても、きっと楽しくなるよ。

いい。男はもう間に合ってるし。

へ?

コレ。

そう言ってサンジは目の前に座るゾロを指差したのだ。

それはただのお友達でしょう?

男の視線が値踏みするようにゾロを見るのが嫌だった。

ひどく面倒臭い。

サンジはゾロに俺の身にもなってみろ、とよく言った。

おまえと一緒にいるとレディに敵意むきだしの視線でじろじろ見られるんだぞ、

なんで俺があんなふうに見られなきゃいけねえんだ、理不尽だろ。

ゾロにはそんなことどうだっていい。

関係ないと思っている。

そして面倒臭い。

だからきっとサンジもどうでもいいと思っているのだろう。

自分がこんなふうに値踏みされるように男に見られるような、そういうことが。

違うよ。

そう言ってサンジは椅子から立ち上がりゾロの隣までやって来て、

べろり、と頬を舐めて、おっさんに向かってにっこりと笑って言った。

オトモダチじゃなくて、コイビト。

まわりのテーブルが色めき立った。

そして、これだ。

テーブルクロスの下で靴を脱いで、足を伸ばしゾロの足の間を撫でる。

熱に繋がるまえのそのギリギリのところで、いたずらみたいに繰り返して撫でたり、

足を擦ったり、せわしない。

テーブルの上ではふつうに料理を楽しむふりをしながら、そういうことをする。

サンジはこういうたぐいの遊びが大好きだ。

目の下が赤くなっていて、酔っ払っているのがわかる。

いまサンジは奇妙なデザートを食べている。

ヨーグルトのなかにシリアルとチーズとバナナとハチミツが入ってて、

その上にシナモンパウダーがふってある。

サンジがゾロにそう説明をした、

口の中に1度詰めてから全部吐き出したみたいなデザートだ。

うまい、食べる?

にこりとして、スプーンをゾロの口元に持ってくる。

目の下の赤いのとか、ヨーグルトが口の端に付いたのとか、

スプーンをぐいぐいおしつけながら笑うのが、嫌になるほど

子供じみていて、こっそり心のなかで小さく舌打ちをした。

テーブルクロスの下でも、指ではさんだズボンをついつい、と引っ張って

口を開けろと催促する。

根負けして口をあけると、そのぐちゃぐちゃのがとろり、と入ってきた。

きっとこれはイヤガラセなのだ。

ゾロがこういう類のものを好まないのを知っていて、こういうことをする。

たわいのない子供のイタズラだ。

とろり、と入ってきたものをごくりと飲み込むと、偉い偉い、と

子供を誉めるみたいに言って、足の裏で膝をするすると摩った。

 

外に出ると暗くて、暗い空に星が沢山あって、

そして人がどこから沸いて出たのかおなじくらいに沢山いた。

さっきのおっさんの仕業かと嫌気が差した。

こういうことははじめてじゃない。

変な男がサンジに声をかける。

サンジは興味もなさそうにそれを追い払う。

それを逆恨みされて、こうなる。

いつもそうだ。

星を見上げてゾロはため息をでっかくつく。

6千万ベリーの賞金首だってな、覚悟しな、ロロノア・ゾロ。

卑下た笑みで、わたしは悪人ですと顔中いっぱいに書いてあるような男が言う。

おお、ますます有名人だなおまえ。

後ろのほうからサンジの楽しそうな声がする。

そして近づいてきて、言った。

やれるか?

からかうみたいに、煙草の煙を吐き出しながら。

誰にモノ言ってんだよ。

少しだけイライラして言った。

悪党面の男たちの殺気がうるさい、とゾロは思う。

静かな夜なのに、うるせえ、そう思いながら腰の刀に手をやった。

でも夜は、と思う。

夜の月の明かりには刀がとても綺麗に見えるのだ。

悪人どもが全員地面に沈むとサンジは、

すげえすげえ、おまえの戦ってんの久しぶりに見たかも、

しかもまもとな状態で戦ってんのなんてものすげえ久しぶりに見たかも、

そう言いながらゾロの頭の黒い手ぬぐいをしゅるり、と外した。

これいいなあ、おれもなんか考えようかな、戦闘モードになったら

葉巻に変えてみるとかしようかな、あ、でもあの海軍のおっさんとかぶっちまうなあ。

しゅるりとはずした手ぬぐいをゾロの腕に巻きながらサンジはそう笑った。

ゾロの派手な立ちまわりのせいで人が遠まきにしてざわざわと言っている。

海軍でも現れてしまわないうちにさっさと退散しよう、そう思いながら

二の腕に巻かれた手ぬぐいを撫でた。

歩き出したゾロの背中に、おい、宿はこっちだぞ、とサンジの声がした。

お約束でおもしれえ、腹を抱えてはあはあとサンジは肩で息をする。

そして、おまえ、なに拗ねてんの、と顔を覗き込まれる。

なあゾロ、変な顔してるぞ。

変な顔、と言って頬に手が伸ばされた。

確かめるようにその手を動かして、ふうっとため息みたいに笑った。

強えな。

そして唇を舐めるみたいにしてキスをする。

夜で、それでも一日の終わりを楽しむ人々が通りには沢山いて、

すこしだけその視線を感じた。

サンジの黄色い頭の上のほうに、おんなじように黄色い月がでっかく浮いている。

6千万ベリーの愛だな。

唇を離したサンジが言って、踊るみたいに地面をトントンと蹴った。

 

 

終ワリ