ドッグデイズ

 

 

 

 

 

サンジが大声でなにかを言う。

遠くのほうの彼の姿を見つめながらナミは

しつこいくらいに生クリームを乗せたアイスココアを飲んでいる。

ウソップはそちらに顔だけ向けて、内容を聞き取ろうとしたけれど失敗に終わったらしく、

手元の芸術作品である砂の城にふたたび熱中し始めた。

ナミの横をゾロが通り抜けて行く。

あの男には彼の言うことが聞き取れたのだろうか、と考えながら生クリームを口一杯に頬張った。

海岸線に沿ってゾロは歩く。

向こうからサンジが走ってきた。

犬だ、と思いながらナミは、彼に尻尾があったなら、たぶん、次の瞬間には

千切れてしまうのではないか、というほどの様子を無表情に眺めた。

隣に座るチョッパーの毛並みは砂の粒だらけだ。

きっとじゃりじゃりとして気持ちが悪いに違いない。

足の裏の砂の粒をほろいながら、ナミはもう1度彼らのほうを見る。

サンジが思いきり突撃したそのせいでバランスを崩したゾロは背中から砂へと倒れこむ。

ばっかじゃないの、と口の中で呟いて、見ないようにしよう、

そうナミは思いながらも、彼らの行動を目の端で追い続ける。

ばかみたい、サンジくんひとりくらい、だまって受けとめなさいよ、

なによ、そんなに簡単に倒れ込んじゃってさ。

サンジはゾロの腹の上に馬乗りになって笑う。

突然に起き上がったゾロによって、サンジは砂の中へと押さえ込まれる。

笑い声がこちらまで聞こえてくる。

犬のようにふたりは砂の上を転がり、じゃれはじめる。

尻尾振り切れちゃうわよ、自慢のスーツも砂まみれじゃない。

ウソップは芸術品の最後の仕上げに入っている。

何が見えるのかチョッパーは、遠く地平線のほうの一点を見つめて動かない。

ルフィはどこへ行ってしまったのだろう。

太陽は高くから彼らを照らし、肌は痛いくらいに熱を感じている。

砂まみれの彼らは砂だらけのキスをしている。

こんなに暑いのにサンジは黒いスーツを身にまとっている。

ゾロの足元の砂を掬っては固め、サンジは彼の足をその場に固定してしまう。

笑いながらゾロはされるがままだ。

時折、サンジの髪に絡む砂を払い、足を固定されたゾロは、

大げさな身振り手振りで何かを話し続ける。

ひときわ大きな笑い声をたて、サンジは走り出す。

足を固定されたゾロは、一瞬あっけにとられた表情になり、急いで彼のあとを追った。

サンジの姿がこちらへと近づいてくる。

太陽はぎらぎらと彼の背中を焼く。

追ってきたゾロに腕を掴まれサンジは後ろへと倒れこんだ。

犬ころのようにじゃれあうふたりはついに海へと飛び込んで行く。

立ち上がる水飛沫に笑い声。

生クリームでべとべととした唇を舐めとって、ナミはチョッパーの頭を撫でる。

ぬいぐるみのようになってぴくりとも動かないトナカイは、

視線を水平線の彼方から、彼らのほうへと移して、それでもまだ動かない。

綺麗につくっても、あいつらに壊されちゃうわよ、さっきこっちに走ってきたのは

サンジくん、それを思いきり壊すつもりだったのよ、ウソップにむかってナミは言う。

陽射しを避けるように、手のひらを瞼の上にかざし、

ウソップは、波間でじゃれるふたりを見て、笑った。

楽しそうだな。

あれで年上なんだから嫌になるわね。

それはそうと、船長、どこ行ったよ。

見かけないわね。

ゴムは溶けるぞ、ヤバイぞ、ナミ。

大丈夫よ。

なにがだよ。

溶けたら冷やして固めてあげるわよ。

犬ころのようにじゃれあうふたりはいま海水まみれのキスをしている。

 

END.