ち ん ち ん

 

 

 

 

 

 

その子供が隣に引っ越してきたのは3月の下旬のことだ。
そして何年も昔のことになる。
ぞろぉ、ぞろぉ、おいてくなばかぁ、
と言ってその子供はどこへでも着いて来た。
着いて来ながら興味がよそへ行ってしまうため、
よく迷子になってゾロの手をわずらわせた。
なんだよおまいごになってたのはてめえのほうだろぉ、
と子供は言ってゾロの脛を蹴り、
むくれながら、だっこしろてめえおれがいなきゃ
いえにもかえれねえだろうがぁと、首に短い腕を回してくるのだった。


 

 

ああなんて甘酸っぱい記憶だろう、とゾロは
ベッドに大の字で眠る目の前の男の
くかっ、くぴ、んふぅー、という寝息を聞きながら、
遠くなりかけたまなざしでお茶を飲む。
差し込む日差しが、明るいと眠れねえー、
というひとことでひかれたカーテンに
閉ざされたそのせいで昼間にもかかわらずそこは薄暗く、
肌のその白さだけが、ぼう、と浮かんでいた。
Tシャツのすそがめくれて臍が丸見えだ。
寝息のとおりにそこはゆったりと上下する。
捲くれ上がった綿のズボンから細く白い脛が気持ちよさ気に伸びていた。
お、生えたんじゃねえか、とそこに申し訳程度に生えた毛に指を伸ばし、触れると、
ううん、んー、っ、と鼻をぐじぐじと擦り、しゅぴ、と妙な寝息をひとつして、彼は寝返りを打った。
彼はゾロの8個下で、けれど、その年齢の差を好きではないらしく、
ゾロのすることはなんでもおなじようにやりたがる。
そして出来ないとかんしゃくを起こして暴れるのだった。
わがままですまんな、と言う彼の父親の目は、
誰よりこいつを甘やかしたのはおめえなんだ、よっておまえも同罪だ、と訴えかける。
ふっ、と自嘲気味に笑ったゾロの目がふたたび遠くなった。
昔、ゾロは猫が飼いたくてしかたがなかった。
けれど母親が、タンスで爪を磨がれたらって考えただけで眩暈しちゃう、とけして許してくれなかった。
そこに、小さくてふわふわな、これがやって来たのだ。
動物が喋れたらいいのにね、とかわいらしいことを言っていたクラスメイトの女に、
うちのは喋るし歌うし、言えばたぶん踊ったりもするぜ、
と窓際の席でひとり思ったこともある。
猫を飼ったつもりになって構って構って構い倒した結果がこれだった。
くきゃ、ふー、と寝息がする。
ベッドからはみ出した手を握り、指の腹を摩った。
不思議に温度のない、白い手のひらは、あの頃よりもずっと大きい。


 

 

ゾロが中学2年、彼が6歳の夏休みのことだ。
誰が言い出したか、ふたりはゾロの祖母の田舎でひと夏を過ごすことになった。
いいとこよ、夜なんて星が満天でもう、落ちてきそうなんだから、と母親は言った。
星などどうでも良かったけれど、お気に入りのその子供が一緒なのはうれしかった。
誰にも邪魔されず、一日中これを構える、と思ったら、興奮のあまり熱が出た。
もぎったトマトをその場で食べて、川でスイカを冷やし、岩場から冷たい水にジャンプする。
ゾロの頭の中に浮かんだのは、トマトの汁で手や口のまわりをべとべとに濡らした子供と、
川原で尻を丸出しに駆け回り、決意の横顔で日の翳った岩場から底を覗き込む彼の、
とぎれとぎれの映像だった。
すばらしい、と熱に浮かされた頭でゾロは思った。
それを見て、触って、撫でて、腕の中に抱きこめる、と思ったら熱がさらに上がった。
あやうく田舎へ行けずじまいになるところだったゾロの枕元に子供が来て言った。
「おれゾロといっしょじゃなきゃぜったいいかないから」
そして小さな手でゾロの手を握った。
お母さんに叱られて泣いてたら、犬がそっと隣に立ったの、
なにも言わないけど、慰めてくれてるんだなあって思ったの、
というクラスメイトの話を思い出し、勝った、と布団の中で拳を握った。
俺のはこうやって、手まで握るぜ、どうだこのやろう、そう思った。


 

 

ゅ、ふ、ん、と寝息が続く。
握った手を離そうとすると、きゅ、と寝ている彼の力ない指が、それをとどめようとした。
思わずこぼれた笑い声を誤魔化すようにゾロは、Tシャツのまくれた腹に顔を埋めた。
いつもこの子供は腹を出して眠る。
田舎に行ったそのときにも、腹を冷やして夜中にトイレに行けなくて、
おねがいついてきてゾロぉ、と頬を張られたような記憶がある。
なにすんだ、と寝ぼけながら怒鳴ると、
だってなかなかおきてくれないから、と彼は心細そうに言った。
そして、手を繋いでそこまで連れて行き、
ぞろぉ、いっちゃだめだかんな、そこにいろよ、という声を、
真っ暗い廊下で目を擦りながら聞いたのだ。
それなのにこの馬鹿は、そんな恩をすっかり忘れている。
俺がゾロにしてやったことなどと、そういうことばかり覚えていて、ことあるごとにそれを言う。
そしてありがたがらないゾロの態度に拗ねる。
拗ねて、ものすごい塩加減の料理をつくり、食べないと蹴る。
馬鹿だなこいつは本当に、そう思いながら腹に顔を押し付けた。
その奥でかすかに、ぐきゅー、と音がする。
拗ねてはとんでもない態度に出るこの子供も、
おめえのちんちん立派にしてやったのは誰だ、と言われると黙る。
う、と言って、その後黙って、うらみがましい目でこちらを、じとう、と見る。


 

 

ゾロのモノに比べて、自分のは形が違うような気がする、と風呂釜の中で子供が言ったのだ。
当たり前じゃねえかアホが、とへにょへにょと伸びる白い頬を摘むと、
俺もそういうかっこいいのになりたい、と言い出した。
彼のそういう行動を、ゾロの母親は、ゾロと一緒じゃなきゃいやだ病と言った。
またその病気がはじまった、と思いながら、そんくれえ自分でしろ、
とピンク色に染まった、へにょへにょの白いのを伸ばした。
いやだあ、俺もなる、それになる、と彼はゾロのモノを引っ張った。
抜けたらどうすんだこのボケ、と言いながら、彼の子供のそれを引っ張ると、
ん、や、いたあい、と甘い声がした。
犯罪、という文字が大きく目の前に現れて、軽く3度点滅した。
甘い声が、ゾロの思い描く、ぐずる猫に似ていたのがだめだった。
右手を、動かすと、子供はなおさら猫のような声を上げる。
やばいなこれ、と白いへにょへにょが、ピンク色を濃くしてゆくのを見つめながら思った。
や、ん、だめぇ、おしっこ出そう、と白いへにょへにょをピンクの濃い色に染めた子供が言って、
してもいいぞ、と風呂釜の中でゾロは囁いた。
や、やだあ、ほんとに出ちゃう、と子供が泣きそうな声をあげ、
くふんくふん、と猫のむずがるみたいに、鼻を鳴らした。
ぐずる猫はゾロにとって、それは魅惑の代物だった。
ゾロがいたずらすると、猫はいやいや、というように、
猫なで声のような声を出して、ゾロの腕から逃げ出そうと必死になる。
実際にそんな様子の猫にお目にかかったことなどなかったけれど、
猫はきっとそうなのだ、とゾロは思っていた。
湯から立ち上がり、くふんくふん、と鼻を鳴らす子供の膝を抱えて、
ゾロは、そのとき、これだ、とそう強く確信したのだ。
長年あこがれていたあれがいま、この腕の中にある。なんとすばらしい。
風呂釜に腰掛けて、子供の膝を抱え、子供のモノを擦りながら、
その顔を覗き込み、出そうなんだろ、ほら、してみろよ、と湯気に包まれゾロは言った。
しー、という効果音も、きちんとつけて、子供の顔を覗き込んだ。
や、や、や、いやぁ、と子供は首を振る。
ぺっとりと頬に張り付いた濡れた髪のせいで、
腕の中の子供は猫よりもずっといいものっぽく、ゾロの目にうつった。
あのときの湯気に色をつけるなら、きっと真っピンクであったはずだ。


 

 

顔の下で腹が上下する、肌の匂いがする。
子供のときは乳臭い、もっと甘ったるいような匂いだったのが、
嗅ぐと腹のあたりがむず痒くなるような濃い匂いに、いつのまにか、かわってしまった。
成長すんだな、と腹に顔をつけたまま毛の生えた足を眺めてゾロは思う。
相変わらず寝息は、ふひ、ぷひゅ、とおかしい。
気づくとカーテンの向こうには暗闇がやって来て、
部屋に忍び込んだその気配が日の終わりを告げた。
馬鹿め、と腹の上で言う。
いま女の前ででかい顔してあれを引っ張り出せんのも、
俺のおかげじゃねえか、感謝しやがれ、このあほう。
それに答えるように、くぴ、と彼の鼻が鳴った。




おわり


 










ち ち ん ぷ い ぷ い 

 

 

 

 

三月の下旬に引っ越してきたその子供の誕生日は、その月の2日だった。
だから三月は出会った記念生まれた記念はじめて記念の記念尽くしなのだ。
ざわざわってするね音が、と早くに咲き始めた桜の下で、
大人になった子供が言って、桜の花びらの色に、
ゾロは子供の桃のような尻を思い起こし、視線が遠くなりかけた。
そう、あれは数年前の3月のことだ。


 

 

風呂の中で懲りもしない子供が、またあれやってよう、などと言う日々だった。
観念の出来上がらない子供というのは恐ろしいほどに快楽に忠実だ。
子供の父親はレストランを経営していて夜は家にいない。
だから必然のようにゾロの家で夕飯を食べ眠り朝にはまた飯を食って学校へ行く。
おまえはいったいどこの家の息子なのだ、と言いたくなるような、その頃はそんな暮らしぶりだった。
毎日一緒に風呂に入ったし、毎日おなじ部屋で眠った。
そんなことが数年も続けば、次のステップを踏みたくなるのが人情というものだ。
あのな、知ってっか、とゾロは風呂の中で幾分か成長した子供へ言った。
その言葉に、うん、なに、と洗い場でシャンプー塗れのなにも考えていない子供が風呂場に響く声で答えたのだ。
なぜ誰もふたり一緒に風呂に入ることをとめなかったのか、それだけが不思議でならない。
いい年をした男がふたり、毎日毎日おなじ風呂釜に浸かるというのも、よく考えれば尋常でない。
それでも誰もなにも言わなかったので、まあいいか、と思いながら、だんだん狭くなるそこに浸かりながら
子供の、わかりもしない英語の歌をでたらめに歌うその声を聴いていたのだった。
そしてそれは子供が14で、ゾロは22の、桜の咲き始めた季節だった。
あのな、知ってっか、ちんちんは擦るだけじゃ終わりじゃねえの、知ってるかおまえ、
とゾロは風呂釜のなかでかぽーん、という洗面器の立てる音を聞きながら言ったのだ。
ふん、とさも馬鹿にしたような子供の目が、泡塗れの髪の下から覗いてこちらを見て、それから彼が言った。
「ばかじゃねーの、じょーしきだろーじょーしき」
思わず、にゃあにいおおう、と変な声で言ってしまった。
そのものすごい無知さゆえにゾロの右手を好きなのだと思っていた。
男同士でこれはねえよな、と思う隙もないのだと思い込んでいたので、変な声が出たのだ。
そして泡を流し終わった子供が、リンスを頭にくっつけたまま、ざぶん、と風呂釜に飛び込み言った。
「えー、おまえもしかして、童貞ー?」
ざざーとお湯が流れ、水蒸気の冷えたのが、ぽとりと背中に落ちてきた。
「だっせー」
その後、俺この間となりのクラスの子とヤっちゃったあー、とうれしそうな声がした。
聞いて欲しくて仕方がなかったことを話すときの癖で、彼の小鼻がぴくぴくとなっていて、
ゾロは指の先に、あるはずのないリセットボタンを探して、手を躍らせた。
俺のこれが、知らない間に、どこかの馬の骨に、喉を鳴らして擦り寄っていたなんて、認めねえ。
探していたボタンを見つけられなかった手で、思わず頭を、ぺしん、と叩いてしまった。
「いてえ!」
「うるせえ」
「童貞だからって僻んでんの?なー?なー?そう?」
これ以上楽しいことはない、という声で子供が言った。
「んなわけあるかよ」
白い肌はいつも湯気の中でピンクの色に変化して、
へにゃん、となった髪の毛のせいで小さな頭はよけい小さく、まんまるに見える。
ゾロはその子供を見つめながらただ、絶望という言葉のことを思っていた。
ひとりじめしてきたこれが、どこへでも行ってしまえることを思って、胸が苦しくなった。
背中にでっかく、自分の名前でも書いておくべきだったのだろうか。
呼吸がうまく出来ず、胸が圧迫され、浅く息を吐きながら
湯の中から立ち上がると、世界がくるっと黒に、反転した。
「ぞぞぞぞぞろぉ?」
という声を聞きながら、ゾロは、ああ、と思った。
そしてそれは以上なにも思えなかった。
そのときゾロは、生まれてはじめて、風呂の中でのぼせたのだった。


 

 

俺は、おまえの、肛門のしわの数まで知っている、と言って子供に殴られた。
「なに言ってんだ、あったまおかしいんじゃねえの」
熱が出て、こんなの入れたくないよう、という目の前のこれに、
なだめすかして座薬を入れてやったのは誰だと思っている、と思いながら拳を握った。
悔しかった。悔しくて仕方がなかった。
誰がその毛並みを整えて、飯をやって、
眠れない日には誰が手を繋いでやったと思っているんだ、と思ったら悔しかった。
「おまえは俺んだ」
悔しくて、唸るようにそう言った。
「誰にもやんねえ」
子供の拳がふたたび頭を打った。
「変態!」
その手を掴んでもう一度言った。
「おまえは俺んだ」
のぼせた頭がまだクラクラとしていた。
「わかったか」
彼はわかったとは言わなかった。
「わかったら行っていいぞ」
背中をひと蹴りして、子供はいなくなり、
ゾロは、子供の膝を抱えいまより幼いその顔を覗き込んだ日のことを思い出した。
そして記憶の中の、しー、という囁きに負けて、
精液とそれから小便もぴゅぴゅぴゅー、と飛ばした
子供の恥ずかしさと快楽と湯の温度で濃くピンクの色に染まった肌を思い出し、
あんなことしておいて女とヤったもねえだろう、と思ったのだった。


 

 

そして話はここからだ。 

 

 

一週間、子供はゾロに近づかなかった。
なぜか夕飯の席も1メートルほど椅子を離されて、
お、このコロッケおまえが作ったのか、などと言ってみても、口も聞いてももらえなかった。
親父だ、とゾロは思った。
まるで自分を、思春期の娘の父親のようだと思った。
洗濯物を、ゾロのと一緒にしないで、と言われたら家を出ようと思ったけれど、
考えてみれば最初から洗濯物は子供が自分で自分の家で洗っていたので、
そんな心配などはいらなかったのだった。
そんなことが続いて一週間、遅い夕飯の前に、子供が
つつつつつ、と寄って来て、今日は一緒にお風呂入ろうな、と耳元で言った。
そして三日月のように目を細めたのだ。
さすが俺のこれは猫のかわりにやって来ただけあって猫っぽい、と思い、その猫っぽさに少し感動した。
感動のあまり指で喉をくすぐると、ひゃあ、と言って子供は首をすくめた。
窓の外の庭には、どこからやってきたのか、
桜の花びらがほんのり散っており黒い地面にピンクの色を浮かび上がらせていた。
ああ、春だ。
わけもなくゾロは感慨に耽りながら白い喉をくすぐり続けた。
ひゃあ、とそのたび子供は声を上げた。


 

 

湯気の中で、ピンクの色を見つめながら、
ああ今日はなんていい日だろうかと思いながら湯に浸った。
子供は、えーぶーりしゃらららあえぶりうおおおお、
とカーペンターズを口ずさんで、記憶の中で鳴っていことなどないはずなのに、
あまりに懐かしいそのメロディに涙を誘われ、ゾロは誤魔化すように湯でざぶざぶと顔を洗った。
あまりにもすべてが美しかった。
そして、いなくなった犬が帰ってきた日のことを言っていたクラスメイトのことを思い出した。
うれしくて泣いちゃった、帰る場所はここしかないんだから、って思いながら抱きしめて、泣いちゃった。
白けた気持ちで聞き流してすまなかったな、そう思いながら子供の髪を洗ってやった。
すぐに泥だらけのその子を洗ってあげて、タオルで拭いてあげたの、
そうしたらやっと安心したみたいに、きゅん、て鳴いたの。
頭の中のクラスメイトが言っているのを聞きながら、子供と一緒にカーペンターズ口ずさんだ。
そして幸せな気分で眠りについたゾロは、その夜中に、腹の上の重みで目を覚ましたのだ。


 

 

目を覚ますと、なにかの霊のように、子供が腹に乗っていた。
白い肌が闇に浮かび、濡れた眼球がこちらを見ている。
金縛りなのだと思って、むりやり目を閉じた。
なんの霊かは知らねえが、大人しく成仏してくれよ、と思い、ぎゅっと目を閉じた。
ゾロ、と声がしたのはそのときだ。
目を開けると、唇に、柔らかいものが当たり、
そして亡霊のような白い手が、頬に当てられる。
ゾロの生唾を飲む、ごくりという音が、闇に響いた。
なんだ、と尋ねた声がうわずった。
黙ってて、と子供の声が言い、パジャマのボタンを小さな手がはずして行く。
小さな手を掴み、セックスすんのか、と間抜けなことをゾロは問うた。
怒ったような顔が、ゾロの顔を覗き込む。
わかんない、そんなの、だけど、
俺がおまえのもんだっていうんだったらおまえだって俺のもんだ、
だから好きにいじらせてくれてもいいだろ。
子供は子供の理屈を言う。
違え、おまえが俺のもんで俺は俺のもんだ、とゾロは下から彼を睨みつけた。
なんだよそれぇ、とかんしゃくを起こす手前の声で子供が言う。
だからその権利は俺にあって、おまえにはねえんだよ、そう言って身体を入れ替えた。
今度は下からねめつける子供が、なにすんだよっ、と小さく怒鳴る。
パジャマから覗く白い肌が石鹸の匂いを立て、薄いような甘いような、
成長過程のその体臭が石鹸の匂いの隙間で香り、
そのときはたと、いったい何がしたいのだろう、そんなふうにゾロは思った。
入れるのか、あれをこれに、と自身に問うた。
入れたいのか、あれをこれに、ともう一度問うた。
わからなかったけれど、子供からはとてもいい匂いがして、目がすこし眩んだ。
それは胸いっぱい吸い込みたいような腹の疼くような匂いだ。
首を舐めると、ひゃあ、と喉をくすぐったときとおなじ声がした。
べろべろでろでろと布に覆われていないあらゆる場所に舌を伸ばした。
ひゃあん、うひん、いやあ、と子供が猫のように身をよじる。
おお、あれだ、とゾロは思った。
これはまさに猫だ。むずかって身をよじるこれは猫だ。
噛むとどうなるのだろう、と思ったので首筋に噛み付くと、っ、と声にならない声が上がる。
たまらずそのまま子供をぎゅっと腕に抱きこんだ。
はひはひ、と変な呼吸が耳元でする。
これがあのとき、ここに越してきてくれてありがとう、と思いながら回した腕に力を込めた。
なんだかもう、全身をべろべろ嘗め回したい気分だった。
いい匂いがして、毛がふわふわで、するりとすべる白い肌で、
猫のように身をよじってはむずがるこれが、いま手の中にあるなんて、
と思ったとたん、心臓がばっくんばっくん言い始めた。
腕の中の子供が、なんかすごいどきどきしてるね、と
甘酸っぱいことを言って、ゾロの背に腕を回す。
回された腕に、終わらせるならいまこのときに終わりにしてください、とゾロは思った。
動物は死んじゃうのよ、と猫を飼いたがった小さいゾロにいつか母親が言った。
死んじゃったら悲しいでしょう、だから飼うのはよしましょう。
これもきっといつかそういうことになるのだ、いまはこんなにあったかいのに、と思ったら涙が出た。
でも大丈夫だ、庭のなまえのわからない花も咲かないくせにやたら成長だけ早い、
あの木の下に俺が埋めてやるから大丈夫だぞ、俺のもんだから、俺が埋める、
そう思いながら子供の肩に顔を埋めた。
すると、恐る恐る、泣いてるの、と言われ、恥ずかしさで死にそうになった。
泣いてねえ、と涙声で言って、首に吸い付くと、自分の流した涙の、やけにしょっぱい味がした。 

 

 

子供の穴は狭くて、ゾロを食いちぎりそうに狭かった。
痛いよう、と子供は泣いて、涙の止まらなくなったゾロも泣いていたので、
馬鹿みたいに泣きながらのセックスだった。
泣きながら、ちちんぷいぷい、と涙声でゾロは言った。
そして、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んで行け、というまじないを、
小さな彼にやってやったことを思い出した。
ちちんぷいぷい、と言うと子供が、笑った。
いひゃ、と笑って、次の瞬間顔をゆがめる。
ちちんぷいぷいいたいのいたいのとんでいけ、と棒読みで言いながら薄い身体を抱きしめた。
まだ痛い、と子供がひくん、と泣いた。
しゃくりあげるたびに、中のゾロも締め付けられて痛い。
ちっ、と舌打ちをして、ちちんぷいぷい、
そんなの、俺が食ってやる、と念じながら彼の口に食いついた。
泣き声が口に吸い込まれてくる。
右手で彼のモノを擦ると、自分のものよりも馴染んでいるようなその感触がした。
いっ、いやっ、ひんっ、と子供が喘ぐのか叫ぶのか、中途半端な声で言った。
「まだ痛えかよ」
しっ、知らない、と涙声で言う。
どこかが馬鹿になったように、ゾロの目からもぼたぼたと白い肌に止まらない涙が落ちる。
子供のそれは手の中で形を変えて行く。
繰り返す手の動きにぴゅくんと先走りの汁が出た。
ゆるくなった穴で腰を揺すると、子供が、ひょ、という間抜けな声を上げた。
「ひょ?」
そんなこと言ってない、言ってない、と首を振り、
子供は行き場がないのだろう手を、自分の胸に擦りつけた。
あー、はいはい言ってませんね、聞いてませんよー、と
子供に言うように言って、腰を揺すり続けると、
そ、そこ、すんな、しちゃだめ、だめ、だめだから抜いて、と体を押しのけられ、
へえ、とゾロは思わず声に出して言った。
右手を動かすことを忘れていたのに、子供のそれからは先走りの汁がぴゅこぴゅこ出てくる。
「ざーまあ、ここだろ、気持ちいいんだろ?」
そこだけを攻めるように腰を動かし続けた。
たくさんの小さいゾロがわーわーわーと叫びながら体の中で大暴れしているような気分だった。
いひゃ、と子供が言う。
「痛え?うそ言え、気持ちいいんだろうが」
うひ、あっ、ひゃ、と色気のない声で子供は喘ぐ。
白い肌は濃いピンクだ。
「なあ、おしっこ出そうか」
出ない、そんなの出ない、そう言う子供が身体をよじる。
「してもいいぞ」
するかばかあ、と弱弱しい声がして、子供は、
毛づくろいをする猫にまるで似たしぐさで小さなそれでも成長した大きな手で顔を擦った。
あまりにも猫っぽいそれに、思わず、ばーか、と笑って言った。
なんだようばか、なに泣いてんだよばかあ、
泣きながら笑うなきもいぃー、と揺さぶられながら子供が喚く。
いつのまにか降り出した、雨の音が屋根を打つ。
ゾロの目からも、絶えずしずくが白い肌に落ちた。


 

 

19になった子供が、忍び込んだ校庭の桜の下で、唇の間から煙を吐き出した。
もう立派になって、だっこなど強請らなくなった身体で桜の下、鉄棒にぶら下がる。
記念好きな子供に付き合って、もうどれくらいの桜をふたりで見上げただろうか、
とゾロは、むず痒い気持ちで思う。
うひー、すげー、吹雪みたいだ、いつしか鉄棒で遊ぶのに夢中になった子供が言った。
ときはもうすぐ零時になろうとしている。
ため息は夜風に乗って花びらとともに流れていった。
白い肌は、ぬったりと月に照らされる。


 

 

おわり 











パ ラ リ ラ パ ラ リ ラ

 

 

 

 

 

 

 

桜の季節が終わり、新緑の季節がやってきた。
やがて子供は夏服に着替え、真っ白なシャツから腕を伸ばす。
けれどそれももう昔の話だ。
子供は大人になり、制服など着ることもなくなった。
あー、あれもっと見たかったなあー、と思いながらアルバムを眺めていると
子供の蹴りを後ろから食らった。
「変態!やめろよ!きもいから!」
思い出にどっぷりと浸りたいほど、この子供からはかわいげというものが消えてなくなった。
頬だけが相変わらずへにょへにょの、白い、まるでモチみたいだった。
成長したもんだ、と、半パンから覗いた立派な脛を見つめゾロは思う。
そして俺がここまでしてやったのだ、と感慨に耽った。
そうあれは子供が15になった年のことだ。





ゾロ、プレゼントはなにくれんの、と前の日に、子供が枕に顔をうずめながら、
恥ずかしいのか、もにょもにょとごもごもと、そう言った。
一ヶ月に一回が一週間に一回になりやがて毎日のように子供とまぐわうそんな日々だった。
ヤりすぎの顔で出勤するたび他の社員の、うわー、という目がゾロを見た。
そしてそんな日々のなかに、子供の15の誕生日がやって来たのだ。
プレゼントなど、ゴム臭くないコンドーム、とかそういうことしか思いつかなかったゾロは、
枕に顔をうずめる子供が口に挟んだゴムで手を使わずそれをゾロにはめるときのことを考えて
堪らなくなり、子供の尻を撫で撫でとしてから、噛んだ。
言葉にすればワーオという以外にない気分で噛んだ。
白いそこをどこも余すところなく、噛む。
肉の感触に、まるでなにかを食べているような気分になった。
うめえ、と思わず口にしてしまうと、噛み付かれてとろんとろんになったはずの子供が、ゾロの頭を殴った。
「変態!」
聞き飽きた、と思いながら、零時になりかけた時計の針に目をやり、
零時ちょうどにおめでとうと言おうと思い、五分ほどゾロはそのまま静かに尻に歯を当てた。
肉の感触が心地よい。
そしてそのまま、零時までの五分にゾロは走馬灯のように流れいくふたりの歴史のことを考えた。
子供がはじめて立ったときのことや、(ゾロの目の前ですくり、と立ち上がり、興奮のあまり、
台所へ走って母親に報告したのに、そのあとはうんともすんとも言わず、狼少年扱いをされた)
子供がはじめてゾロのを咥えたときのことや、(何度も歯が当たるので、散々それを言うと、
かんしゃくを起こした子供に本当に噛み付かれて死に掛けた)雨の日や風の日や、晴れの日もあった、
と尻に歯を当てながら、鼻の奥が痛くなるのを感じていた。
肌寒さに手繰り寄せたたタオルケットからはボディシャンプーの、果実っぽい匂いがした。
そして尻に歯を当てながらタオルケットに包まってゾロは、
冷凍みかんとプラスチックの水筒のお茶を持って列車に揺られた日のことを、
窓から見える海岸線に目を輝かせていた子供のその横顔を、思い出したのだった。
強い日差しと、潮の香りの、それらに焼かれて強烈な残像を残す、夏の思い出だ。
アイスを食べる子供がうまいうまいとあまりに言うのでその舌を舐め、甘い牛乳の味を確かめた。
舐められた子供は、ひゃー、と笑って、
いやしんぼー、とゾロをからかい、白い肌は太陽に照らされたのだ。
零時を示す時計の針に、思い出の中からずるずると這い出てゾロは、
誕生日おめでとう、と言って子供の尻にむちゅっと噛み付いた。
雲に隠れていた月が顔を出し、その尻の白を晒し、
あらゆる場所につけられたゾロの歯型がわかる。
胸に轟く、子供の肌の匂いの甘さを、鼻の奥で感じた。
誕生日おめでとうな、とゾロはもう一度言った。
返事のかわりに、きゅふー、という寝息が聞こえ、
ため息を吐いたゾロは子供の尻を抱いたまま、目を閉じた。





けむしー、と玄関で大きな声がする。
ぞろー、外に出れねー、けむしー、と子供のわめく声がした。
玄関のドアを開けるとそこには大きな桜の木が生えており、この季節にはぼとぼと毛虫が落ちてくる。
毛虫を見るのがいやだからゾロの家にいかない、と言う子供のために、
子供のやって来る日は玄関の前の毛虫を一匹残らず退治する。
彼がいっさい虫に触れないのは、小さかった彼に虫を見せびらかしていじめたゾロのせいだった。
ぎゃーきもちわるーいという子供に虫を押し付けて、失神させたりして遊んだのだ。
はやくはやく、という声に急かされながら虫を摘んで下の駐車場に投げる。
初夏にもかかわらず夏のように暑い日差しが車の屋根に降り注ぎ、毛虫もそこに乗る。
じゃあいってきます、と子供が小学生の子供のように言って、出かけていく。
丸い頭が道の向こうに消えていくのを見送りながら、
いまではまるで大人がするように、甘くかすれて低い声で、ねえはやく、などと言う子供が、
思春期の娘のようなことを言ってゾロの傍に寄りもしなかった、あのときのことを思い出した。





誕生日祝いを身体で払ってやる、と言うと子供が、
ヤれればなんだっていいんじゃねえかよ誕生日だろうが
クリスマスだろうが49日だろうが、と言って枕を投げつけ、
なんだってんだいったいぜんたい、そう思いながらゾロは投げつけられた枕で鼻を打った。
てめえのそのツラ見せられて、首とか腹とかケツとか見たら、
そりゃあエロいことするに決まってんじゃねえか、と怒鳴れば思い切り蹴られた。
枕の当たった鼻の頭と蹴られた鳩尾が痛んで、腹が立った。
子供の身体を押さえつけ、手のひらでそれを弄った。
やめろ、と快楽に滲んだ目をした子供が言い、やめられてえのか
こんな気持ちいいこと、やめていいのかとゾロは言ったのだった。
「されたくねえなら俺の視界に入ってくんな。
それが出来ねえならする。いくらでもする。エロいことしてやる」
サイテー、子供がそうはき捨てて、去っていった。
かかる息にかすかに煙草の匂いが混じっていた。
大人だろ、と昨晩開けた窓に煙を吐き出していた子供の笑顔を思った。
8歳なんて、追いつけるわけないのに、あの子いまだに直らないのねー、
あんたと一緒のことばっかりやりたがるの。あんまりあの子のまえで
お酒とか煙草とかやらないでちょうだいよ、教育に悪いんだから、いつかに母親がそう言った。
たしかそれはゾロが車の免許を取ったときのことだった。
子供は、悔しそうにそれでもうらやましそうに免許証を眺め、
最後にひとこと、ぶっさいく、と免許証の写真にケチをつけて去り、
くやしいのね、自分がどうやったって敵わないから、
くやしいんだと思うわよ、と母親がその様子を言ったのだ。
いつも階段の数段上に立っているゾロに向かって、
駆け足で上って行こうとする子供が見える、と。
だからどうした、それを待っててやるわけにも行かないだろう。
歩調を合わせていたら、自分は社会に爪弾きにされるだけだ。
「違うのよ、優位に立たれてるようなのが嫌なのよ、
わかっていても、嫌なのよ、対等になりたいのよ」





セックスをするようになって、子供は変わった。
なにが、と言われればうまい言葉を知らないゾロは答えに詰まる
しかなかったけれど、子供は虫の変態のように内側から、ふたたび新しくやって来たのだ。
ふとした拍子に首をかしげた子供の様子に、あれは一体なにかしら、
でも、サンジくんて、なんだかとってもアレよね、と母親が言った。
アレというのは母親が、あそこのおじいちゃんてちょっとアレよね、
お隣さんまたアレらしいわよ、などとあっちにもこっちにも使う指示代名詞だったので、
そのときのアレがなにを指すのか、正確なところまでは理解出来なかったけれど、
ゾロもおなじように、そういやアレだたしかにアレだ、と考えたのだった。
白く細い清楚を装うその首筋が、白日の下であっても、
なにかしらそういった匂いを纏い、振りまくのを、ゾロは知っていた。
内側から濡れる肌は、じっと見ていればそのまま溶けてだらりと甘く白く、朽ちてゆきそうに思える。
子供のくせに、とゾロは思いながら、口も聞かなくなった子供を思い、寂しい自慰を続けた。
想像の中で子供は泣き叫んで許しを乞う。
口元にはだらしなく涎がたれて、薄い頬は赤く染まり、涙に濡れる。
子供の泣き顔はゾロの劣情を誘い、右手のスピードは早まった。
狭いあのぎちぎちの穴の壁に、ぐちゃぐちゃに音を立て思いきり擦り付けたかった。
子供の温かい口に飴玉のように転がされる玉のことや、
キャンディーのように舐めしゃぶられることも、考えた。
ただ空しい想像だった。
匂いも体温も言葉もぬめりもない、ただのそれは空想の子供だった。
そしてこういうこと以外にも、子供になにかしたかった。
けれど子供の首や足や顔を見ていると、こういうこと以外にもなにかしたい
気持ちがすべてどこかへ飛んで行ってしまう。
あとに残るのは、発情期の猿の似た、強烈なそれだった。
それに、猫のような子供は酷薄さがそれに酷似している。
するりと寄ってきたかと思えば、次の瞬間、つるりとすべっては逃げて行く。
だから猿は、猫の穴に無理やりにももどかしく、性器を突っ込むしか出来ないのだ。





仲直りはいつだって子供の歩みよりによって行われる。
我が侭で気立ての余り良くない、
毛並みだけが最高の猫が、するり、と懐に入り込んでくるのだ。
「ゾロ、ケチャップごはん作ったけど食べる?」
ほかほかの、赤い飯を乗せたその皿を片手に子供が現れたのは、
彼の誕生日が過ぎて、2週間もたった頃のことだった。
白い手の差し出す皿を受け取り、無言でゾロは赤い米粒を頬張った。
ケチャップごはんは、子供の手作りケチャップで作る、
卵の乗っていないチキンライスで、子供が一番最初に覚えた料理でもあった。
そして世界で一番最初にそれを食べたのは、ゾロだ。
なにかというと子供はケチャップごはんを作ってゾロに寄越す。
確認するようにゾロの頬張る様子を眺めて、センチメンタルな顔をする。
ケチャップごはんを食べるゾロの、後ろにいるたくさんのおなじようなゾロを、
見ているような目をして、ぽーっとゾロを眺めるのだ。
子供の気持ちはよくわかる。
ゾロだって、靴下を履く子供や、風呂釜の中で100数える子供や、
寝癖を直す朝の仕草や、テレビを眺める横顔の後ろに、
たくさんのおなじような子供を見ているからだ。
そして思うのだ。
ふたりの歴史、はたまた愛の歴史というやつを、思うのだ。
鶏肉を噛み締め、子供がゾロを眺めるのを、ゾロも眺める。
数分の間そうして見詰め合った。
手を伸ばしたのはゾロが先だった。
その瞬間に子供の体が固くなったのがわかった。
部屋の中にはケチャップの匂いと、
子供の放つ体臭の甘く腹の下に、ぼう、と熱をともす匂いがあった。
「なにすんだよ・・」
「エロいこと」
「馬鹿じゃねえの」
腕の中で子供が暴れる。
髪の毛はくしゃくしゃに乱れて顔を隠し、
細い腕がゾロの腕をはがすために懸命に動く。
「エロいことされに来たんじゃねえの」
「んなわけねえだろ」
「嘘言え、だったらなんだこれ」
子供のズボンの前を撫でた。
驚いた事に、ケチャップごはんを食べるゾロを見つめて、
子供はズボンの前をきつくしていたのだった。
「おまえのせいだろ」
おまえの顔見てたら変になんだよ、と前を撫でられながら、
弱弱しく、目が熱で潤み始めた子供は言った。
「するっつったろ、エロいこと、それわかっててなんで来てんだてめえはよ」
「殺し忘れたんだよ」
目を瞑ってゾロに背を預け、前をくつろげられた子供は足をゆるゆる開いていく。
清楚なその首筋からは、いやらしい匂いがして眩暈を誘う。
数えるほどしか女をしらないそれは、
ゾロの手にすっぽりとはまるサイズで、そして幼い色をしている。
玉はふよふよとしてべつのなにかの、かわいらしい生き物のようだ。
「悩殺か?やめとけ。てめえにゃ無理だクソガキが」
「違え!蹴り殺すんだ!」
ゾロの手に性器を握られて、擦り上げられながら、子供が言って暴れた。
「笑わせんじゃねえよガキ、もうイっちまいそうじゃねえか、はえーな。
もうちっと頑張んねえとお姉さんには相手してもらえねえぞ」
「るせえ」
「とか言って息あがって来てんじゃねえか」
「警察呼ぶぞ、犯罪者」
瞑られた瞼と、寄せられた眉根、したいことは他にもあるはずなのに、
この顔がだめなのだ、ぎゅっと腹に、熱く重いどろりとしたなにかを注ぎ込んでくるのだから。
そんなことを考えながらゾロは、子供の穴を、いままでで1番やさしいやりかたでもって、撫でた。
「勝手にしろ、電話かけながら突っ込まれちまえ。
そんで受話器の向こうにイっちゃいますとか言え」
ぷ、と指が入って行く。
「いてぇ」
「当たり前だ、すんなり入ってたまるかよ、ケツに指だぞ」
「抜けよ」
「いやだね」
「抜いて」
「嫌です」
「抜いてください」
「はい却下」
きつきつとゾロの指一本でさえも絞め付ける狭い穴、これが
ぶっといゾロの性器まで、じゅぼじゅぼ飲み込むのだと想像したとたん、口の中に唾が溜まる。
「痛えんだってば」
「知るかよ」
「おまえがいっぺん突っ込まれてみろよぉ」
「お、ここだろ、隊長、発見しました」
指先にかすめたそこを狙って嬲れば、ひゅくんひゅくんと
子供の性器や体が小さく震え、指一本でさえもきつい入り口が、緩まった。
「誰っ、が、隊長だ」
腋の下から匂いたつ、腐りかけの乳を煮詰め甘い香料をほどこしたような、
濃くてどろりとゾロの体にまとわり離れない子供の体臭、同時に
ジェルの甘酸っぱい、人工甘味料じみた匂いが、鼻をつく。
清楚な首筋に舌を這わせた。
「泣いて頼め、そしたら考えてやらないこともない」
「ごめんなさい抜いてください」
「バカかてめえ」
やがて穴は2本の指を飲み込むまでになる。
眉根をよせて、快楽と消えない痛みに戸惑う子供の、
アバラさえ見えそうな白く平らな胸に尖る乳首は、そんなときどこか切実な様子をしているのだった。
ゆっくりと、丁寧に、自分でも馬鹿みたいだと思うくらいに、
時間をかけて、どうしてここまで面倒臭いガキに執着しているのだか、
と自嘲しながら、ゾロは子供の顔を覗き込む。
目の下はまるで風呂上がりのピンクの色、
細く震える薄い瞼、そして白い歯が、唇の間から見えた。
指の動きを強めてゾロは、息を深く、する。
「約束が違え!詐欺!詐欺師!」
「2本も咥え込んでよ。おまえが詐欺だろアホ言うな。
上の口と下の口で言うことぜんぜん違えんだよ」
「だからそこやめろ」
「隊長、3本目突入します」
「やめろそれぇ」
「隊長そろそろ、これ、突っ込んでもいいですか」
張り詰めて痛いくらいの性器を取りだした。
子供の粘膜に擦られることを期待して、だらしなくそれは涎を垂らす。
彼の手を取り、その涎を拭う。
熱さに驚く子供は肩を揺らし、まるで無意識の、熱い息を吐いた。
突っ込むぞ、指でぐにぐにと中を弄りながらゾロは囁いた。
「むり・・、むり、むり、むり、死ぬ、から、裂け、て、死ぬ、から」
「じゃー口でしろ、しゃぶれ」
「したらやめる?」
「したら、その後入れる」
「やだやだやだやだぜったい嫌だ」
子供が、泣いて暴れる。
突っ込まれれば、すぐによがってみせるくせに。
収縮と弛緩を繰り返す中に、強く誘って離さないくせに、
なにを言うのだろう、とゾロは苛立った。
醒めたどっかで、ああやさしくしてえのになあ、とも考えた。
やさしくしてやりてえのに、ほんとは別のかわいがりかたがあるはずなのに、
なんで痛がらせてまで突っ込むことばっか考えてんだ、まったくこれじゃあ覚えたての猿だ。
けれどそれは一瞬の反省で、けっきょくは止まらない熱が先を促した。
猿だった。
「うるせえな」
「あっ、キレた」
「ぎゃーぎゃーわけわかんねえことをぐだぐだと」
「逆ギレっていうの、そういうの逆切れだから!」
「うるせえ、大人しくさっさとヨガれ、ガキ」
ぐぽ、ぐぽ、ぐぽ、と狭かった子供の穴がいまは大きく口を広げ、ゾロを飲み込んで行く。
「いたいいたいいたいいたいいたいいたいしぐ」
「俺のほうが痛え」
ぎゅう、と子供がゾロを絞める。
ミミズ千匹どころじゃねえな、と思いながらゾロは顔を歪めた。
「うそつき!俺のほうが痛い!」
「いいからヨガれ。ヨガってみせろっつーの」
「やだ、だからそこすんなボケ、カス、変態」
「勃起さしといて言うかそういうこと」
しゅこしゅことそれを擦れってやれば、子供は、子供みたいに泣く。
「うあああああん」
「泣くな、つってんだろうが」
んひー、と子供がおかしな声を出す。
「そこやめろぉ」
「やめません」
「やめろっ、つってん、だろー・・」
子供の手を押さえ付け、背中に圧し掛かる。
皮膚越しに子供の震えが伝わって来る。
んあー、あー、あー、あー、と、発情期の猫の声が上がる。
「知りません」
押さえ込んだ子供の肩はねっとりと、運動場を走りまわっては
けして掻けない汗で、ぬめりはじめる。
「やめろ、よ、ばかあー・・肩がよーじぃれるぅー」
ジェルとゾロの先走りと、子供のそれから垂れてくる液で、そこはじゅぼじゅぼ白い泡が立つ。
「手、手離して、ごめんってごめんなさい、手ぇ、は、なしてください」
「離しません」
荒い息の合間に言う。
どうして、この穴は、こんなにもいやらしいのだろう、
なかばうっとりと思いながら鼻先から垂れて来た汗を舐めた。
しょっぱい味がする。
「離せってば、はなせー!離して、お願いだから、ちんちん扱かせて、なあ、な、ゾロぉ」
振り向く子供の顔はあらゆる汁で、みっともない形相をしている。
口の中に入れて、ばりばりと咀嚼したいほどみっともない、そんないやらしさだ。
だらしなく垂れ続ける唾液を舐め、溢れそうなのをじゅるじゅると口の中から吸い出した。
首、もげちゃう、と子供の声が言う。
首もげちゃうし、もうイきたい、子供のぬめった唇がそう言った。
「いいからもうちっと踏ん張れ」
「やだやだなんか変なことんなるってば。なあ、いやだって」
「なれよ」
「やーだ、じゃあ扱いて、お願い扱いて」
「やだね」
「いじわる!さいてー!へんたい!」
「ネタ切れかよ」
「うるせえ!」
無理やりゾロの手から外した手のひらで、猫みたいな子供は、猿のように懸命に性器を擦る。
「だーから、扱くなっつーの」
「るさい」
にちゅにちゅにちゃにちゃ、と音が立つ。
「ひと扱き100円な」
「なに、っ、それ」
「100円」
「いやああああ」
「大人なんだろ?泣ーくなっつーの」
ううううう、と唸りながら子供が泣く。
みっともねえ、とゾロは思う。
性器を扱きたいがためにこれほど必死になって泣いて喚いて、みっともねえ。
そんな子供のみっともない姿に、興奮してる自分はもっとみっともない。
こういうとき、8歳の年の差なんて、どこかへ飛んで行ってしまう。
真っ裸でこういうことをしているこんなときにだけ、そう思うなんて妙な話だ。
だけど、いいよなあ。
余計なこと一切なしで、擦り付けることだけ考えてりゃいいんだもんなあ。
ちちんぷいぷいだ、と思った。
ちちんぷいぷい、くだんねえことぜんぶ、遠くの山へ飛んで行け。
飛んで行っちまえ。
粘膜は収縮を繰り返し、ゾロを包む。
「600えーん」
「かっ、数えんなばか」
ずく、ずく、と腰を押し付けた。
その頃の子供のこずかいは3000円だった。
ゾロが1500円までカウントしたところで、金の勘定でもしたのか、
子供は諦めて、唸りながらシーツを血管の浮いた手で掴んだ。
ぱさぱさと髪を彼は振る。
子供が身体をよじるたびに子供の匂いがゾロの鼻に届く。
それは凶悪で、強烈な、子供の体温で上昇する、間違いようもなくゾロのための匂いだった。
首に噛み付き、それを食う。
シーツを掴む子供の手をそのまま握りこんだ。
じゅく、ぬぽ、と暗がりに音がして、
ぎし、とベッドが軋み、すらりと子供の尻はゾロの手に馴染む。
「・・・サンジ」
子供の名前を読んだ。
ひゅ、ひゅ、と声にならない喉から搾り出した音が子供の口から聞こえ、押さえつけた手に力がこもる。
白い背中に汗が浮かんでいる。
その白い背中と合わされたゾロの胸は汗で滑り、どくどくと血液がめぐるリズムを皮膚の下に思う。
子供の嫌がる箇所に、腰を押し付け、刺激する。
彼のそれからは糸が垂れるように先走りがシーツを濡らしていた。
ゾロが肩に噛み付くと、うえっ、うえっ、と吐くような声を子供が漏らす。
サンジ、と囁き耳を食む。自分でも笑いたくなるほどに甘い声が出た。
「こんなこと、おまえだけだ」
首を振る子供の内股が小刻みに震えて、
おっ、おぼえてろっ、夏の終わりの勢いをなくした蚊の泣くような声がした。
「当たり前だろ、忘れねー」
一瞬の硬直、そして子供のそれに触れると、ねちゃねちゃと汁っぽい感触があった。
はは、とゾロは笑い、掴んだ白い手を骨のみしみし音のしそうなほどに、握りこんだ。
「パラパラッパッパー」
掠れきった声で子供が言った。
「なんだよ」
レベルアップの音、さいあく、つーか早く出せ、
もう、嫌だ、つーか抜け、いますぐ抜け、そしたら飛び降りて俺は死ぬ、
子供がとぎれとぎれに言う。
「2階から落ちたくらいで死ぬかよ、アホ」
手の中に握りこんだ子供のそれを痛いくらいに擦るとそれはすぐにまた反応を示す。
逃げる子供がずりずりと前進してゆく。
はは、ともう1度笑い、ゾロは言った。
「誕生日おめでとう」
そして射精すると、ぴぎゃ、と変な声を出して子供はシーツに突っ伏した。





いつのまにか帰ってきた子供が、アイスやる、とコンビニの袋を投げて寄越す。
暗くなった窓辺から、夕闇が部屋へ忍び込む。
白い指が、Tシャツの裾をめくって、風呂場へ去っていく。
あの指を、俺のいねえときには、自分で穴に突っ込んで、
オナったりすんのかな、とコンビニの袋を片手にゾロは思う。
ずぼずぼ突っ込んで、俺の名前とか呼べばいいのにな、と呟いた。
そして指じゃ足んなくて、俺がいないことをせつながって泣けばいいのにな。
棒アイスを、熱心にしゃぶるふりをしながら、ゾロは、センチメンタルにそんなことを思う。
子供の白い肌を赤く染め、夜を運んでくる夕暮れ。
それは子供のあらゆる顔や仕草や声を、ゾロの中から
いたずらに引き出しては腹の奥をくすぐって行く、時刻だった。
「おまえをアイスよ」
アイスをしゃぶりながら呟いた。
最高きもい、声に振り向くと、しかめっ面の子供がいた。
「しかもおもしろくねえよそれ」
そう言う子供がゾロの口の中のアイスを見つめる。
「そうか」
「そうだよ」
言いながら子供が肩にぐいぐいと頭を押し付けてきたので、それをぐりぐりと力の限りゾロは撫でた。
彼の皺しわの指が、ゾロの指に、どうせなら、これくらい言えっつーの、と重なった。
「しあわせー」
言って、へにょへにょでモチのような頬をへらりと緩ませ、大人になった子供が笑った。
どうしようもなく薄ら寒い気持ちでゾロはその頭を撫でる。
そうしてそのとき、愛のレベルアップ、もしくは人生のそれを知らせるバイクが
音を鳴らし、その余韻すら残さぬまま、パラリラパラリラ窓の外を去って行った。


終わり